
「研究」と「業務」,両方やらなくっちゃあならないってのが「社会人大学院生」の楽しいところだな
2025.12.16

目次
はじめまして!Ashinoと申します.
今年度から株式会社オークンでデータサイエンティストをしています.また,博士後期課程(D3)にも在籍しており,主に「スポーツ科学における統計モデリングを用いた操作的定義の付与」をテーマとして研究活動も行っております.
さて,いきなりですが今月末に提出締切のある博士論文は執筆済みにもかかわらず提出できそうにありません.
原因は投稿中論文の査読が終わっていないためです.ひとえに私の落ち度...ということにしています (年始に投稿してまだ結果が出ていないのはどないやねん).
…というわけで,大学院生を並行していると,たまにこういう「詰みイベント」が発生します.
「それでも続けるのは,なんで?」と思った方もいるでしょう.
そこで,本稿では私が社会人として働きながら大学院生を続けている理由を,できるだけ正直に,そして端的に書いてみます.精神論というより,意思決定としてどう考えてきたか,という話です.
結論から言うと,理由はわりとシンプルです.
熱があるうちに研究を進めたかったのと,学びや成果を外に出すのが好きだから.
それに加えて,「その方があとで自分が楽になる(=選択肢が増える)」という意味で,ちゃんと合理的でもあると思っています.
修士でいったん区切って,就職する道ももちろん考えました.
ただ,正直に言うと自分は飽きっぽいタイプです.一度離れたら,研究の熱が冷める気がしました.「また戻ってくればいい」は,たぶん自分には難しい.そう判断しました.
それに,LLMなどの技術の変化が速い今は,「いつかやる」より「今やる」の方が美しく,そして強い気がしています.時間と集中をちゃんと注げるものがあるなら,先延ばしせずに向き合っておきたかったという気持ちがほとんどです.
結果的に,この判断は悪くありませんでした.研究を続けていた流れで,修士2年目から独立行政法人でデータアナリストとして働く機会も得て,研究と実務の並行が始まりました.
いま振り返ると,「どうにかなれ」という勢いというより,将来の選択肢が増える側に,資源を賭けた感覚に近いです.
私は,学ぶこと自体も好きですが,それ以上に学んだことを形にするのが好きです.
書く,発表する,まとめる.外に出した瞬間に,自分の理解も一段深くなる感覚があります.
もう一つは,組織の中だけで完結すると自分がやったことが“埋もれる”こともあるという点です.評価が欲しいというより,自らの足跡という成果が記録として残って,後から自分でも参照できる状態に安心を感じます.
博士課程は,この「外に出す」ことと相性がいい.それも継続できている理由のひとつです.
博士号は万能ではないですが,少なくとも会社や制度の内側に閉じない「持ち運べる証明」になり得ます.
日本で働くうえで有用な資格や実績は多い一方で,それらはその文脈の中で強い,という面もあります.
環境が変わっても,自分の専門性を説明できる土台を持っておきたい.その意味で学位は,長い目で見たときの“保険”にもなると思っています.
並行が根性論で終わっていないのは,データサイエンスが研究と実務の両方で使える道具だからです.
研究では統計モデリングで,筋の通った検証や現象を説明することを大事にする.実務では機械学習を中心に,予測可能性と実務的有用性を追い求める.
目的は違っても,「データから構造を取り出して,説明できる形にする」という基底は共通しています.
研究で会得した理論や簡潔な説明などは業務でも効くし,仕事で鍛えた問題設定が研究にも効く.ここに相補性があるからこそ,この並行は成り立っていると思います.
「学業と社会人の同時進行ってめちゃくちゃ大変ちゃう?」とよく聞かれます.
確かに,大変です.ただ,前提として私は好きで2つをやっています.だからこそ,全速力で燃え尽きるよりも長く楽しく回せる方に寄せています.
ここからは,「根性」ではなく「運用」で,好きな2つを長く続けるためにやっていることを書きます.
極論,これに尽きます.並行する生活が始まったタイミングで,「どちらも完璧を目指すことは後々自らの首を絞めることにつながる」と思いました.片方がうまくいかなかった場合,もう片方のモチベーションや努力度に影響が発生しうると考えたためです.
そこで,あえて「捨てる」という判断をしました.たとえば
これらの取捨選択のおかげで,修士2年後期から約3年間の間燃料を切らさず走ることができていると実感しています.
基本的には細かい時間割というより,重い作業をいつやるかだけ固定しています.
ここで重要視しているのは,平日に無理に進捗を生もうとしないことです.平日は「もう少しやりたい」を溜めて,週末に爆発させる状態を作るのが個人的には良い感じです.

ちなみに,仕事側が面白いのもこの並行を前向きに回せている理由です.
現在オークンで担当している業務は,分析やモデルを開発して終わりではなく,最終的な実装までつながる場面がほとんどです.そのため,「研究で鍛えた説明の仕方」や「検証の作法」がそのまま効く瞬間があります.
さらに言うと,この往復が続けられているのはオークンの風土も大きいです.まず「とりあえずやってみよう(Try First)」で小さく検証を回せる.その上で「本質を追求する(Find the Root)」方向に議論が深まっていく.そして,それを自分ごととして動かせるだけの裁量がある.
研究で慣れている進め方と相性がよく,個人的にはかなり助けられています.
すみません,これまではいかに破綻しないかを述べてきましたがそれでも破綻するときはします.大体詰むのは以下の機会です.
……とは言うものの,続けていて「報われた」と感じる瞬間もちゃんとあります.研究でモヤっとしていたことが仕事の判断に効いたり,逆に実務の制約が研究の問題設定をシャープにしてくれたり.この往復があるだけで,「やっててよかったな」と思えます.
社会人と何か(私の場合は学位取得)の並行は,「毎日気合で頑張る」というより,好きがちゃんと好きのまま続くように設計するゲームみたいなものだと感じています.いくら楽しくても,気付かぬうちに体や心はすり減っているかもしれません.だからこそ,短期的な達成よりも,長期的に面白がれる形を選ぶのが大事です.
エコーチェンバーや看板の大きさにとらわれず,「自分の名前で説明できる成果」を増やしていきたい.その手段として研究活動は本当に素晴らしいです.そして,その「何かに熱中する姿勢」は日々の業務にも強く生きていると実感しています.取り組むことが派手じゃなくても,一歩ずつ積み上げていこうと思います.
はてさて,次は学位が無事取れた頃にお会いしましょう(つまり未定).

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